海も川も安らかに

☆海も川もやすらかに

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            円覚寺 横田南嶺

  毎年お正月には一年の無事安寧を祈りながら

 昨年はおもいもかけぬ災害の年になりました。

  三月の東日本大災害に始まり、夏には新潟などで

 豪雨被害がありました。

  大震災の被災寺院へは、五月と九月の二度お見舞い

 にまいりました。新潟にもお見舞いに行きました。

 そんな折に、私の郷里である熊野地方で、台風で川が

 氾濫し大きな災害となりました。

 幸いにも生家も親族も無事でしたが、知人宅も流され

 たり、町では大勢の方が亡くなりました。


  九月の末にようやく、故郷の見舞いに出かけました。

 まだ鉄道は通らず、道路はどうにか通っているものの

 交通規制もあり、自衛隊の災害派遣の車がひっきりなし

 に通っていました。

  那智山へもお見舞いに上りました。途中の那智川の

 氾濫はすさまじく、東北で見た津波の惨状と同じでした。

 那智山に上って那智の滝にお詣りすると、大木が倒れ

 大きな岩がごろごろ転がり、普段とは全く異なる光景

 でした。しかしながら、私が胸打たれましたのは、まだ

 道路も復旧されていない中、観光客もゼロに近いにも

 関わらず、ご神体でもある御滝への参道は塵ひとつなく

 掃き清められていました。那智大社もお寺も、懸命の

 復旧作業をしながらも、境内は箒の目がきれいにたって

 掃除されていました。

  人が来ようが来まいが、かわらずきれいに掃除する、

 このこころがあればきっと復旧できると、確信しました。

  詩人の坂村真民先生は

 「鳥はとばねばならぬ  人は生きねばならぬ」

 と詠いました。

  どんな状況になっても、人はいのちある限り、希望を

 持って生きてゆかねばなりません。

  大勢の亡くなった方の事を思うと、いたたまれませんが、

 それでも明日を信じて、一日一日を生きてゆくことこそが

 亡くなった方への供養にもなります。

 
  気仙沼で大変な津波の被害に遭われたお寺の和尚さんが

 いらっしゃいます。円覚寺の僧堂の雲水も何度か足を運んで

 復興のお手伝いをしました。

  十一月に鎌倉にみえてお目にかかりました。その折にこんな

 事をお聞きしました。

  津波で、家も大事な船もすべて失ったお檀家の方が、あるとき

 和尚さんに言われたそうです。「それでも津波を恨みはしません。」

 と。どうしてかというと「自分たちは海に生かされてきた。海と

 共に暮らしてきた。これからも海と共に生きるしかない。だから

 津波を恨むことはしない」というのです。和尚さんもそれを聞いて

 涙が出たと言われました。

  熊野の人もおそらく同じかと思っています。山が崩れ川が氾濫

 しましたが、熊野の人は山に生かされ、山と共に生きてゆくこと

 でしょう。

  大自然、大いなるいのち、言葉を換えますと仏心、仏さまの

 いのちと言ってもよいでしょう。私たちは大いなる仏心の中に

 このいのちをいただき、仏心の中に生きてまいります。時に自然

 は猛威を振るおうとも、その中で生きてゆかねばなりません。


  円覚寺では、昨年の五月から仏殿を一般の方に開放し、中に

 入って円覚寺のご本尊であるお釈迦様を間近で拝んでいただけ

 るようにいたしました。やはり仏さまのお近くにいって、仏さま

 と目を合わせて手を合わせるとこころがやすらぎます。

  私も折に触れて、仏殿で一人仏さまの前で手を合わせます。

 仏さまはいつも私たちを見てくださってます。

  特別な震災や災害でなくても、私たちは生きてゆくからには

 様々な辛いこと、苦しいこと、悲しいことがあります。時には

 人にも言えないこともございます。そんなとき仏さまに手を合

 わせて、仏さまは何もかもご承知で見守ってくださるんだと

 思うとこころが安らかになり、そして生きてゆく力が湧いて

 まいります。

  巻頭の色紙は「海安河清」と読みます。海も川も安らかに

 という意味です。仏さまに手を合わせて、どうか海も川も

 そして人も安らかにと祈っています。





関興寺のご住職さまより、いただいた「円覚寺」の

  お正月号に掲載されていた記事に感動しました。

  実は、なすがママの実家は熊野なんです。そして

  円覚寺の管長様もなんと、同じ郷里でして、昨年の

  災害は、その熊野と今住んでいる新潟で起こりました。

  実家は床上浸水しましたが、幸いにも被害は最小限で

  済んだようです。今住んでいる塩沢地域でも、山が崩れ

  浸水の被害が出ました。いつ自分も災害に遭うか分からない

  と感じる世の中になってしまいましたが、それだからこそ

  毎日の命や、穏やかな生活に感謝しながら日々を過ごして

  いきたいと思います。